概要
上記日程・場所で無事開催し、シラバスに基づく授業設計、教室での教授方法、成績評価の方法などを見直し、新たな授業形態を模索しました。国際法教育者のこれまでにないコラボレーションを喚起することに成功しました。
- 参加者(31人)
- 研究者(23人)
- 学生アシスタント(8人)(愛知県立大学、大阪大学、北九州市立大学、西南学院大学、立命館アジア太平洋大学)
- 謝辞
- 会場(APU)・会計(西南学院大学)職員・学生による運営補助、末延財団による補助金に感謝します。
- 主な補助金使途
- ゲスト講師招聘費用
- 学士・修士・博士課程に所属する方、博士号を取得されてから3年以内の方の宿泊代・交通費の補助
- 託児サービスの提供
1日目(20日)
11:30-12:00 キャンパスツアー
会場校であるAPU在学生の案内を受けて、キャンパス内の教室や設備、学生寮等を見学し、各参加者の所属大学とは異なる教育環境への視野を広げました。
12:00-13:00 昼食 @大学生協(カフェテリア)
13:00-13:15 オープニング・アイスブレイク
オープニングスピーチ:根岸陽太(西南学院大学)
本プロジェクトでは、若手教員の協働を生み出しつつ、3つの境界(分野・国境・世代)を超えて、教育者の共育のための場づくりを進めています。初年度となる今回のカンファレンスでは、国際法教育者が一堂に会して、様々なテーマについて知見を交わし、新しいアイデアを創り出すコラボレーションの機運を作り出すことを目的にしています。2日間の合計4セッションを通じて、国際法教育がこれまで前提にしてきた「学ぶ人」・「教えるべき内容」・「教えるための材料」を考え直していきます。具体的には、学生の声を取り入れながら教員同士が意見を交わしていくことで、シラバスに基づく授業設計、教室での教授方法、成績評価の方法など、新たな形態の授業を一から作り上げていきます。
アイスブレイク:平野実晴(立命館アジア太平洋大学)
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13:15-14:45 第1セッション:国際法の何を教えるの?
ファシリテーター:平野実晴
「国際法って、私も知ってた方がいいの?」このように聞かれて、皆さんはどのように回答しますか?このセッションでは、参加者はグループに分かれ、学習者の目線に立ったシラバスを書くワークをしました。各グループには、ボランティアとして参加してくださった2~3名ずつの学部・修士学生が入り、色々な関心を持つ学習者のロールを演じてくれました(例:宇宙ビジネスに関心のある工学部生、インフルエンサーになりたい国際関係学部生、国際報道機関に就職したいメディア学部生、地元の公務員志望の政治学部生)。各グループに分かれた教員は、学習者のロールを演じる学生とのやり取り、教員同士の議論を通して、シラバスと講義概要と講義計画を作成しました。
参加者の感想
- GWの学生のロールは、分野問わず何かしらすでに関心を持ち合わせていた(発見した)学生に概ね絞られていたが、実際にはまだ関心を発見できていない学生が多くいると感じていることを思い出すと、実際の教壇がより険しく感じられた。
- 法学部ではない子を想定して作ったので、 法学部の授業となるとどうなるか改めて考えたい。
- 今回、 学生の声を聞くという企画が入ってきて非常に面白いと思った。
- 国際法総論から教えなければと思い込んでいたが、各論から(あるいは実際の事例から)入るのもありだなと感じた。
15:00-15:45 インターバル:デジタルツールを国際法教育に活かす
スピーカー:阿部紀恵(神戸大学)、根岸陽太、平野実晴、ティティラット・ティップサムリットクン(タマサート大学)、二杉健斗(大阪大学)
参加者有志から、普段の授業で活用できるデジタルツールを紹介し共有しました。スピーディーにアンケートを実施して結果を可視化できるMentimeterや、オンライン上でのアイデア出し等に利用できるPadletといった手軽なツールから、GoogleスプレッドシートとGoogleフォームの連携方法といった応用的なテクニックまで、教育者の用途と技術に応じた様々な選択肢が提示されました。本イベント中にも一部のツールを参加者が実際に利用し、その使い勝手を確認する機会を設けました。
参加者の感想
- 生成AIツールを教員側も活用できるようになると、学生が生成AIを使って作成したものを見分けるのがもっと楽になると思うので勉強したい。
- 教えてもらった様々なツールを使うと面白くなる(学生の関心を可視化)と思った。
- Padletを使って、学生に 「ポップカルチャーと国際法」のページに色々書き込んでもらおうと思います。 動機づけや理解促進に効果があると思います。
16:00–17:30 第2セッション:教室で何をする?
ファシリテーター:根岸陽太
今や全ての教員がシラバスで全体像を描いていますが、各コマの授業はどのように具体的に設計しているでしょうか。このセッションでは、各グループが第1セッションで作成したシラバスの中から授業コマを一つ選び、教育学の見地から作成されたデザインシートを参考に、90分の流れを具体的に考案しました。成果共有の場面では、教員からの情報伝達だけでなく、学生のペアやグループでの作業、事前・事後課題との連携も組み込む案が発表されました。また、使用するツールも、教員の作成した資料だけでなく、視聴覚・デジタルツールを効果的に用いることが議論されました。学生のアクティブラーニングを多く取り入れると、事前準備や時間配分など細かい工夫が必要になることも実感しました。
参加者からの感想
- 90分を分刻みで考えてなかったので考えます!講義で 双方向性が求められる中で、さまざまなツール、 軽いグループ発表を取り入れるなどのアイデアについて話し合えて良かった。
- 90分の計画を綿密に考えたことがなかったのでやってみます!やりたいトピックのアンケートもよいですね。
2日目(21日)
10:00–10:45 モーニング・トーク:研究を世界に発信する
ファシリテーター:阿部紀恵
パネリスト:ティティラット・ティップサムリットクン、小林友彦(小樽商科大学)、岡田陽平(神戸大学)
海外ジャーナルへ論文を投稿してきた研究者3名をお招きして、「なぜ」「どう」論文を投稿するのか、についてのご自身の経験を語っていただきました。まず、研究力の向上や、日本の研究者のプレゼンスを高めるといった動機など、世界水準で研究する目的が共有されました。次に、投稿論文の内容と投稿先雑誌の特色とのマッチングを見極めながら、査読者との議論を通じて、自らの研究の価値を深く探求するという営為の醍醐味が語られました。最後に、参加者との質疑応答を通じて、投稿経験の浅い若手研究者の不安の共有と解消が試みられました。
11:00-12:30 第3セッション:学習を評価するには?
ファシリテーター:二杉健斗
学習の目標や内容に応じて最適な評価方法を選び取ることが求められる一方で、日本の国際法研究者の多くが教育を受ける日本の大学の法学部では、伝統的に筆記試験が評価方法として重視され、それ以外の評価方法に触れる機会は必ずしも多くありません。本セッションでは、学習評価の多様なあり方に意識を向けるため、1日目に作成したシラバスに沿って授業を行うとすればどのような評価方法をどのように組み合わせて用いるかを議論しました。各グループからは、毎回の授業でのリアクションペーパーやニュース発表、学期末のレポートやグループでのプレゼンなど、様々なアイデアが交わされました。最後に、ゲストアドバイザーの長沼祥太郎先生(九州大学)からもフィードバックを受け、研究と教育のバランスのとり方にも注意が向けられました。
参加者からの感想
- レポートや1発試験など、私達がこれまでなんとなく経験してきた成績評価方法の中に気をつけなくてはならない欠点があることがよくわかりました。
- アクティブラーニングの成績評価で、長沼先生の意見に救われました。ただ、ざっくりした点数をつけるのか、細かくつけていくのかは教員の腕の見せ所だと思います。
- 程々に、 がんばる。最新の研究とか事例に言及する余力を残す。
- 学生と教員の距離感についてもう少し皆さんの経験をきく事ができたら嬉しい。(長沼先生が指摘していた)まだ距離がある中でグループ ディスカッションを覗きに いくと威圧感がある、という意見が面白かった。
- ルーブリックの作成や活用をもう少し考えたいと思いました。
12:30-13:30 昼食 @大学生協(カフェテリア)
13:30-14:15 インターバル:法と教育学
ファシリテーター:山下朋子(愛知県立大学)
パネリスト:長沼祥太郎(九州大学)、長島光一(帝京大学)
このパネルでは、本プロジェクトの目的の一つである「分野を越える」ための取り組みとして、法と教育学の架け橋となる2名のゲストをお呼びして、自身の知見と経験について話していただきました。長沼先生からは、学習内容によってどのように「学習の難しさ」が違うのかを分析し(例:生物学の「遺伝」、法学の「人権」)、それぞれの内容がなぜ難しいのか、その難しさを和らげる教授法は何かなどを教員に提案する研究を共有してもらいました。その膨大な作業はGPTsの開発によって処理されており、将来多くの教員に提案されるようになる日も来そうです。
長島先生からは、法と教育学会での活動などを通じて、大学生だけでなく中高校生にも法学の意義を届けていくための実践を紹介してもらいました。法と教育の関係は、中学・高校教員と弁護士などの実務家から模索されてきたものの、大学教員・研究者からの関与が少なかったこと、また教材が十分に開発されていないことなどの問題が指摘されました。国際法については、近年のロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・パレスチナ問題などで教育現場の関心が高いため、今後のコラボレーションが期待されるとのことです。
参加者からの感想
- 長島さんの話に出た「昔話法廷」を国際問題に置き換えた題材を1年生向けにやってみたい。
- 教育系のことをされてる先生方のお話が新鮮でした。
- 教育学からのインプットは今後も期待したい(耳学問で失礼ですが...)
14:30-16:00 第4セッション:リフレクションと国際法教育のこれから
今回のカンファレンスを振り返りつつ、今後の共育への活かし方、今後の活動について、意見交換をしました。
カンファレンスの感想
- コラボレーションの機運が高まった気がする!
- 講義設計のパターンを沢山考えられたので、 引き出しが増えたかも
- 教育手法について、従来は1人で悩むしかないところ、共有できて良かった
- 「〜しっぱなし」(レポート出しっぱなし、フィードバックもらいっぱなしなど)を回避する。常に次を考えて=継続的改善が教育と学問の本質(教育と研究の交差点?というのがわかって新鮮だった。
- 研究者養成の観点から、 教育方法が体系化されることで、養成される研究者が一定の規格におさま ってしまうのでは...というのは杞憂だろうか。
- 設計はできたが、教員の負担が無尽蔵になってしまってもやもや。
- 最近の学部生は就活スケジュールの早期化等で非常に忙しいことを考えると、どこまで要求していいのかの 線引きが難しいと思った。 学部生は国際法だけやっていればいいわけではない...。
今後の活動への期待
- シラバス
- シラバスは過去にやったけれど、繰り返すことも大事かも
- お互いのシラバスへのコメント
- 教材の共同開発
- 国際法教育のためのポップカルチャーの利用に興味がある
- 試験課題の共有、 公開
- 小テストのデータベースのコラボがしたい。
- 教材(事例分析シート、 様々な規模の模擬交渉/ 模擬裁判の問題、 授業中に使える動画)小テストデータベース
- (教員にとって)再利用可能かつ(学生にとって)アクセシビリティや長期的な 活用可能性の高い教材の作成と共有(スライド、小テストetc...)
- 学習者の多様性への対応
- 学生のバックグラウンド 別・国際法に関心を持ってもらうための傾向と対策
- 研究者に対する国際法教育。今回は教育の論理(学生ファースト、学習効果を上げる教育方法の探求)がメインでした。しかし、研究の論理=研究者が教育をすることで研究活動に対するどんないい影響があるか ? 研究にいい影響のある国際法教育とはどんなものか ?
- 社会人や市民向けの国際法の学習
- 英語での国際法の教え方、教材選び
- 教授法
- 学生に授業評価してもらう機会はまたあればいいなと思いました。
- 学生同士のディスカッションを促す方法
- 次回のカンファレンスでは、シミュレーションの実演をしてほしい。 具体的なイメージがつきやすいし、 経験者からのアドバイスがいただけると勉強になるので。