国際法教育カフェ① 学部ゼミと模擬裁判
国際法教育カフェ① 学部ゼミと模擬裁判

国際法教育カフェ① 学部ゼミと模擬裁判

国際法教育カフェ(第1回):学部ゼミと模擬裁判

国際法は世代を超えて受け継がれていく。若手教員が後進に教えていくにあたって、先輩教員たちがどのような経験をしてきたかを聞いてみたい。でも世代の壁は意外と高いもの。「緩やかに交流できる "カフェ" のような雰囲気があればいいのに…。」

そのような声に応える「国際法教育カフェ」では、ゲストの先輩教員からざっくばらんに話していただき、若手も交えて意見交換する時間を持っていきます。

ゲスト:岩月直樹先生(立教大学)

日時:9月13日(水)10時〜11時

形式:Zoom(参加登録された方に詳細をお送りします)

登録:Googleフォーム

※ このイベントは、「国際法教育の比較研究と若手教育者の能力育成―分野・国境・世代を超えるコラボレーション―」(公益財団法人 末延財団「比較法・外国法研究教育プロジェクト助成」から支援を受けています。

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開催記録

💬
岩月先生:
  • 現在ゼミでは模擬裁判を行い、学生は春はJapan Cup、秋はJessupに参加している。模擬裁判でない伝統的な形式のゼミも別途開講している。
  • 2003年に着任した当初は、各回、国際法学で論争のあるテーマ割り当て、報告してもらうゼミを行っていた。模擬裁判は学生に求められる作業量が膨大で、ゼミの単位では足りないと考えていた。しかし、初期のゼミの方法は学生のニーズとミスマッチしていた感じがあり、学生が実際に何か学び取っている感じがしなかった。
  • そんな中、ある学生から「法学部にはゼミ論文とか卒業論文がないので、学生時代に何かこれをしっかり勉強して身につけたとか、打ち込んで取り組んだっていうふうに胸を張って言えることをやりたいんだけれども、そのためには何があるでしょうか」と相談を受け、模擬裁判のことを真っ先に思いついた。
  • 最初は4人ほどで出場し、大きな結果は残せなかったものの、予想しなかったくらいのめり込み、これまでに感じたことがないやりがいを感じたとの声があった。そうしたやる気のある学生がいるのであれば、ゼミでも模擬裁判は可能だと感じた。
  • 模擬裁判の問題点として、学生間でコミットメントの差から衝突が生じることは多い。そのため、それぞれがコミットできる範囲をきちんとコミュニケーションするよう指導している。また、意見の違いは当然あるべきものであって、人格的な非難ではない建設的な批判は推奨されるし、就職後にも役に立つことも指摘するようにしている。
参加者との間の質疑応答:
模擬裁判ゼミの成績評価はどうやっていますか?
  • 書面の作成と弁論練習にきちんと関われているか、プロセスに着目して評価している。弁論者を勤めたか否かで、評価に違いを設けていない。弁論を行わなくても、それを支える調査と検討に参加できていたかを見ている。
  • 学生は単位を気にせず楽しんで参加しており、過程を重視して評価している。コロナでオンライン進行が進んだこともあり、SlackやOviceといったサービスを使用して学生の参加の様子をモニタリングしている。
ゼミ生から教員へのフィードバックはどう活かしていますか?
  • 少人数の演習であるため公式のアンケートの対象にならないので、口コミが主なフィードバック方法。岩月ゼミは学生にとって非常にハードで、時間とコストがかかるという評判。
  • 現在の学生のフィードバックは、模擬裁判の方法や事前の準備に関する改善要求が中心。
模擬裁判ゼミをやる上で先生側の負担はどれくらいですか?
  • 模擬裁判は最先端の問題が取り上げられることが多く、未知の問題や論点が出るため、教員側がしっかり勉強しなければならない。これが負担だが面白く、自身の知識が広がる利点がある。
  • 学生間のコミュニケーションを円滑にするために会食の機会を設けるが、食事代を気にしないように私が負担することが多く、それが「負担」といえばそう。ケータリングを頼むこともあり、回数によってはかえって学生に気を遣わせてしまうこともある。
法学の初学者が模擬裁判に参加するのは難しくないでしょうか?
  • 国際法の基本を身につけずに、細かい知識だけ覚えてしまうというデメリットはある。学生には、答えがない問題なので、変に「答え」を探しに行くのではなく、教科書に書いてある基本原則から考えればどうなるかというところからアプローチするよう指導している。
  • 議論の仕方に関わる法学の基礎概念(権利とか義務とは何なのか、といった)を踏まえないまま国際法の技術的なことだけを学習してしまうというデメリットもあり、長らく課題として残っている。その意味では、1年生から模擬裁判に参加することにはリスクもある。
リサーチの仕方はどのように指導・誘導していますか?
  • あくまでアドバイザーとしての役割を超えない範囲で関わっており、学生たちが自分たちで調べる方向性や使う道具に関するアドバイスを行っている。
  • 教員は「伴走者」であるべきで、学生が行き詰まった場合には新たな視点や調査方法を提案している。経験豊富な学生が初心者にアドバイスすることもあり、それは非常に効果的。
模擬裁判をゼミでやる場合、何人くらいが適正人数でしょう?
  • 人数が少ないほうが、全員が積極的に参加してくれるし、作業分担も容易。8人以下が適切ではないか。
現実の国際裁判実務とのズレはどのように捉えればよいでしょう?
  • 学生には常に、模擬裁判はゲームであって、実際の国際法裁判とは異なることを強調している。慣習国際法の認定など、現実とかけ離れた議論がされることもあるが、あくまでゲームとしての枠内で捉えるようにしている。
  • 参加者からは、学生が現実に触れる前段階の「ぬいぐるみ的な学習ツールとして模擬裁判が持つメリットも指摘された。他方で、Asia Cup模擬裁判大会はより現実の実務を反映させる形で修正されつつあることも指摘された。

参考

岩月直樹「法学のアントレ(第14回)ゼミ 模擬裁判を通して国際法を経験する」『法学教室』452号(2018年)2-3頁 PDF html