昨年に続き、多くの国際法教育者が一堂に会するカンファレンスを東北大学国際法政策センターと共同で開催いたしました。本カンファレンスでは、「現場」「ローカリティ」「リアリティ」「身体」「モノ」「場づくり」といったキーワードを切り口に、国際法教育を振り返り、今後の改善や新たな取り組みにつなげる活発な意見交換の機会を設けることができました。
- 参加者(32人)
- 謝辞
- 会場(東北大学)・会計(西南学院大学)職員・学生による運営補助、末延財団による補助金に感謝します。
- 主な補助金使途
- ゲスト講師招聘費用
- 学士・修士・博士課程に所属する方、博士号を取得されてから3年以内の方の宿泊代・交通費の補助
- 3月17日(月)午後:フィールドワーク
- 3月18日(火)午前:フィールドワークを踏まえてのワークショップ
- 3月18日(火)午後:カンファレンス
- 3月19日(水)~16時頃:カンファレンス
- 3月17日(月):フィールド(福島県震災遺構浪江町立請戸小学校と東日本大震災・原子力災害伝承館)
- 3月18日(火):東北大学@青葉山コモンズ
- 3月19日(水):東北大学@片平北門会館
プログラム
1日目:3月17日(月)午後:福島県にてフィールドワーク
東日本大震災・福島原発事故に関して、震災遺構浪江町立請戸小学校と東日本大震災・原子力災害伝承館を訪問し、国際法と災害を題材にした教育に向けた知見を得ます。
2日目:3月18日(火)@東北大学
10:00~12:00 特別企画:国際法と災害シミュレーション
法と教育学会での法教材ワークショップ(前述I)の成果をフォローアップする機会として、ワークショップで作成した「避難所ロールプレー学習指導案」を参加者とともに実践しました。前半のロールプレイでは、東日本大震災と同レベルの事態が発生した場合に、避難所ではどのような問題が発生するのか、多種多様なバックグラウンドを持った人々を演じることで身をもって体験しました。
後半の国際法パートでは、国際法上の人権・災害法の観点から避難所をどのように改善していくかを一緒に考え、国際法から身近な問題を見直していく方法を考えました。
今後は、参加者から受けたフィードバックを踏まえて指導案を改善し、高校や大学で活用できる実践として昇華させる予定です。
13:00-13:15 オープニング
13:15-14:45 カンファレンス①:国際法教育と身近なローカルトピック
司会:根岸陽太
授業では、教員が国際法の理論や体系を教えることに集中することで、学生は抽象的で遠い存在に感じてしまう傾向が指摘されています。そこで、学生にとって身近で現実的なローカルトピックを活用し、国際法をもっと親しみやすく学べる方法を探ります。各参加者には、事前にGoogleマイマップを使い、自分が身近に感じる地域のトピックやフィールドワークを地図上に書き込んでもらいました。当日は参加者が持ち寄ったローカルトピックを共有したあと、グループで一つの授業をデザインする際に、どのようにローカルトピックを用いるかについて議論しました。
15:00-15:45 インターバル・セッション:ICRCと国際人道法教育
司会:平野実晴
ゲストスピーカー:赤十字国際委員会(ICRC) 駐日代表部 法律顧問 西山 秀平 様
国際法教育では、「国際法の現場のリアリティ」を伝えることに苦労することが往々にしてあります。特に武力紛争法は、日本からは縁遠い状況に適用される方であり、最近はメディアで多く取り上げるものの、実際にどのように法が機能しているのか、伝えるのが難しい面があります。本セッションでは、ICRCが作成している教材や学びの場で用いることができる様々なリソースを体系的にご紹介いただきました。そして、参加者の間で、どのようにそうしたリソースを用いているのか、活用例を共有しました。
16:00–17:30 カンファレンス②:シミュレーション・ロールプレイ
司会:平野実晴
ゲストスピーカー/インストラクター:青森県立はまなす医療療育センター 吉川靖之 様
国際法の学びは、身体とは無関係なのでしょうか?法適用の場面で現実に生じる難しい判断を感じたり、記憶の定着を促したり、身体性を法教育に取り入れることで、様々な効果が得られます。本セッションでは、青少年向けの国際人道法普及ツールであるレイドクロス(RAID Cross)をご紹介いただき、その上で体験学習の実施する際の方法や工夫を実演を通してご説明いただきました。参加者は、実際に自ら体を動かしてロールプレイを行い、学習者の経験を感じるとともに、大学の教育現場に取り入れる際の考慮について意見交換しました。
3日目:3月19日(水)@東北大学
9:45–10:45 カンファレンス③:道具・ツール
司会:二杉健斗
インストラクター:佐々木絃様(同志社大学大学院法学研究科博士後期課程)
どこか縁遠いものとして捉えられがちな国際法を学ぶ際に、身の回りにあるモノや、国際法やそれに関わる事象を体現するようなモノを実際に見たり触れたりすることで、国際法と学習者との間の橋渡しをする可能性について考えました。参加者には、様々なモノを持参いただき、それらをどのように教育に活かすことができるかを話し合いました。
後半では、デジタルツールの教育への活用法として、同志社大学博士課程の佐々木絃様より、国際法英単語帳や国際法キーワード集の作成過程をご紹介いただき、生成AIの可能性や限界について意見交換を行いました。
11:00-12:30 国際法教育カフェ(植木俊哉先生)
司会:小栗寛史
ゲストスピーカー:東北大学理事・副学長 植木俊哉先生
先輩教員から教育に対する姿勢・悩みなどを共有していただき、それをもとに参加者が国際法教育についてざっくばらんに語る「国際法教育カフェ」を実施しました。カンファレンスの開催地である東北大学で約40年にわたり国際法教育に携わり、その間に多くの教材をご執筆・編集された植木先生をお迎えして、先生の学生時代の国際法教育の様子から、講義の中で学生に伝えようとしてきたこと、教材作成に込められた想い、そして大学行政のご経験まで、これまでの先生のご経験を惜しみなくご共有いただきました。
13:30-14:15 小田滋ICJ判事記念室・東北大学史料館の訪問
カンファレンス開催地である東北大学では、世界に例のない3期27年の長きにわたって国際司法裁判所(ICJ)判事を務めた小田滋先生が約30年にわたって国際法教育に従事されました。今回はカンファレンスのインターバル企画のひとつとして、「学者裁判官」としての小田先生の足跡が展示されている東北大学史料館の記念室を訪問しました。史料館と記念室の訪問を通して、東北大学法(文)学部における教育の歴史を学ぶことができたのみならず、小田先生がイェール大学に提出された学位論文やICJの各種史料などを手に取りながら、小田先生が大切にされた国際法実務の現場を垣間見ることもできました。
14:30-16:00 カンファレンス④:学びの場づくり
ファシリテーター:平野実晴
カンファレンスを振り返りとして、「学びの場づくり」を切り口に、ワークショップを行った。様々な「場」のあり方、「場づくり」の方法やその際の考慮要素について意見が出ており、各テーブルから多様な意見発表が行われた。